2015年01月30日

キュレーターが読み解く戸隠の魅力


こんにちは。昨日(1/29)の戸隠は氷点下15度ぐらいまで下がり、今シーズン一番の冷え込みでした。
前回、雪はもういらないと愚痴を書いたら大神様に聞こえのか、以来、パタッと雪が降らなくなり、あんき(=気楽という意味の戸隠ことば)に過ごせた一週間でした。
今日からまた数日、雪がつづくようですがicon04

さて、昨日は観光協会の事務局がある長野市戸隠支所の職場研修会に参加しました。
講師はこのブログでもおなじみ戸隠地質化石博物館の田辺智隆先生。

「戸隠の魅力を再発見しようー祝!妙高・戸隠連山国立公園の発足ー」というタイトルの講義でした。
そう、先週、メディアでも報道されましたが、今まで上信越高原国立公園だった妙高・戸隠を含む西部エリアの39,772ヘクタールが、新しい国立公園として制定される運びになり、その名称を「妙高戸隠連山国立公園」とすることで中央審議会から環境相に答申されたということです。正式な告示は3月ですが、地元では新国立公園の誕生を喜ぶ声が多く聞かれます。

田辺先生は、学芸員として当時の戸隠村に来て以来27年間、地域を調べ、その魅力を読み解き、伝えることに尽力されています。
専門は地質学、古生物学ですが、動植物についても造詣が深く、興味深いお話がたくさん聴けました。
たとえば......戸隠の固有種に「トガクシショウマ(トガクシソウ)」という花があります。明治時代に戸隠山で発見され、日本人が初めて名前を付けた花というのは有名ですが、大正時代にこの花を宝光社の富岡旅館の息子(富岡朝太)さんが大正天皇へ献上し、たいそう喜ばれ、皇居に植えられたというエピソードは初めて知りましたicon12

戸隠連峰の歴史については、明治時代から遡り、太古の昔、500万年前へ。
約500万年前には海底だった場所が、200万年前から徐々に隆起し、現在は2,000M級の山脈になっているのです。
平均すると1万年で10M、千年で1M、1年で1mm!
成層火山ではなく、500万年前の海底が隆起した山としては日本一高い山が、戸隠連峰ということです。icon14隆起した後に、侵食され、固い部分だけが残り、柔らかい部分は削られて凹みになり、その凹みが修行僧の洞窟として利用されたのですね。

戸隠山の山腹からは、貝の化石やサメの歯の化石が見つかっている、この日本でも稀に見る山が、ますます魅力的に思えてきましたface05
これに対し、飯縄山は成層火山(古火山で今は噴火口もない)で、戸隠スキー場のゲレンデがある怪無山、瑪瑙山とつながる大きな山腹を持つ山だったそうです。火山は水を貯えやすい地質で、戸隠は水に恵まれていたということ。そのため、人々が住みつき、米づくりができない場所であっても狩猟採集をしながら、自然を生かした知恵で生き抜いて来た場所であるということも解説していただきました。


田辺先生は「地域の素材を総合的に学ぶということは、そこで生きる意味を考えること」だとおっしゃいます。
戸隠の子どもたちに、自分の生まれた土地に誇りを持ってもらえるよう、親として勉強することがいっぱいあると、仕事を忘れて聴き入ってしまいましたface01

ここにご紹介しきれなかった田辺先生の名調子をお聴ききになりたい方は、ぜひ戸隠地質化石博物館へお出かけください。
また、3月1日(日)には毎年恒例、戸隠を知る会主催の雪上自然観察会が行われ、博物館の学芸員さんたちと冬の間しか見られない絶景と生き物の営みを体感することができます。
多勢の皆さまのご参加、お待ちしております!



  


Posted by toga at 10:57Comments(0)自然歴史と伝説戸隠人

2015年01月20日

「おら家の逸品」食べある記


こんにちは。今シーズンの雪の降り方は晴天を何日かはさみながら、降れば一日で大雪icon04なので、シーズン半ばながら、「もうご馳走様!」といいたくなるような雪の量です。
とはいえ、豊富な雪のおかげで大賑わいの戸隠スキー場
好天に恵まれた日曜日のゲレンデには子どもからシニアまで、多勢のお客さまが楽しいときを過ごしていました。

そこで、今回は、ウィンターシーズンの週末におすすめの「おら家(おらっち)の逸品」キャンペーンをご紹介します。
ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、このキャンペーンは戸隠観光協会加盟の飲食店・宿泊施設の冬のおすすめの料理をご紹介するもので、スキー場開場50周年だった昨年に引き続き、2回目の開催です。
今季エントリーしているお店・お宿は21軒。
今回は、そのうちの2軒の「逸品」を取材して参りました!

まずは、宝光社の宿坊山本館の敷地内にあるそば処千成(せんなり)

敷地内に湧き出る湧水を利用した「湧水仕込み」のそばが自慢のお店です。千成の今季の逸品は蕎麦ポタージュそば(¥1080)。
キャッチフレーズは「出汁のきいた ぽってり和のポタージュにサクサクのトッピング」
観光協会のスタッフの中でも「気になる〜」という声が聞かれましたので、代表していただいて参りましたface02

感想は....サクサク、トロトロ...予想を超えた新食感で、非常に満腹になりました。
ごま油の風味がほんのり効いたかつお出汁は、そば粉でとろとろにトロミがかかり、
そばの上には野沢菜、天かす、海苔がのっかり、小鉢に入ったネギとショウガをトッピングしていただきます。
トロミがそば粉でつけられたあんかけそばといえば、伝わるでしょうか。
千成さんはもともと麺の量が多めなので、麺がのびないうちに平らげるには、かなり勢いが必要かと思います。
このキャンペーンのためにメニュー開発をされたオーナーの山本さんにお話を伺うと、「ざるそばならいつでもどこでも食べられるけれど、冬に、このお店に来なければ食べられないそばを食べていただこうと思った」とのこと。
お客様の中にはグループで来て、「おれは冒険したい」と言って蕎麦ポタージュそばを注文され、「予想以上においしかった」と大変喜ばれたというエピソードも。
話題づくりにはもってこいの逸品、ご興味をもたれた方はぜひお腹を空かせてお試しください!

お次はスイーツ部門。スキー場に近い越水ヶ原の山旅の宿樅の木山荘へ。
登山家である先代が建てた山小屋はこだわりがいっぱい。吹き抜けのロビーの中央には囲炉裏と暖炉。
ベンチの上にはさりげなくネパールの絨毯が敷かれて、とても居心地のよい空間です。



今季「おら家」初参加の樅の木山荘でこのキャンペーンのために開発されたメニューはこちら。

手づくりおしるこ(お漬け物セット¥650)です。
小豆と花豆のおしるこの中に白と紫のお餅が入っています。お豆の甘さはもちろん、お餅がもちもちとして甘いのに感動icon06ボリュームがありますが、あんこ好きな私は一気に食べてしまいましたface02
調理を担当されている若女将の徳武しず江さんにお話をうかがうと、お米も花豆もお父様(先代)が戸隠地区内の田畑で自家栽培されたものとのこと。
お漬け物の野沢菜と大根も当然自家製です!ちなみにランチョンマットは先代女将が庭の草木の押し花を使って手作りしたもので販売もしているそう。
そして、このメニューのもうひとつのポイントはパック詰めしてテイクアウトができるところ。
お客様にスノーハイキングのお茶の時間に楽しんでいただければと考案されたそうです。
テイクアウト用はお漬け物が付かないので600円。スノーハイキングで温かいおしるこ。想像しただけでも気分が上がりますねicon14

なお、喫茶は予約制(宿泊しなくても利用可)。こんな素敵なカウンターでいただくことができます。
コーヒ—や、山荘オリジナルのチャイ(別料金)と併せて優雅なティータイムはいかがでしょうか。


京都出身で気さくな若女将はなんと5児の母!
この日は次男&四男くんと一緒に。
ちなみに、樅の木山荘の手作りおしるこが、SBCテレビ1月22日(木)14時50分〜放送の「3時はららら♪」女子の力コーナーの中で紹介されるそうです♪


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Posted by toga at 16:08Comments(0)文化イベントカフェ

2015年01月15日

戸隠のお年とり(その2)


戸隠神社中社駐車場にて

こんにちは。今朝は気温が高く、雪雲が空を覆っていたと思ったら、案の定。久しぶりのまとまった降雪になりそうな戸隠です。
毎朝一番にすることはカーテンを開けて夜のうちに積雪があったかどうかを確認すること。雪を見て喜ぶのは子どもだけ、大人は...icon15
さて、気を取り直して、今回はおばあちゃんにきいた「お年取り」のお話です。
お正月明けの昼下がり、地域のお年寄りに定期的に体操を教えているからだの楽校主宰の健康運動指導士・徳武有紀先生にご協力いただき、戸隠の農村部(豊岡地区)にお住まいの82歳から92歳のお婆ちゃん4名に戸隠保健センターにお集まりいただきました。

4人ともお腰が曲がり、杖をついてはいるものの、お顔はつやつや。年齢を伺って驚くほどのお元気なお婆ちゃん達でしたface01
しかも、皆さんお一人で暮らしていると聞いて、さらにびっくり!
「このマキ(グループ)なら何でも喋れる」と楽し気な皆さんです。

まずはお年取り(大晦日)に食べるものについて質問しました。
Q1.お年取りには食べるものが決まっていましたか?
A1. (全員)決まっている。
Q2.年取りのお魚は何を食べましたか?
A2.(全員)サケ......ブリやイワシを食べるという家もある
Q3.年越しそばは食べましたか?
A3.(全員)昔は食べなかった。最近になってから手打をして食べる家もある。


昔は商家などでは年末に集金をするので、「お年取りは遅い方がいい」と言われ、
歳神様に焼き鮭とご飯、けんちん汁を御供えして、家族皆が揃ってから夕食を食べたそうです。
年越しそばの風習は戸隠には昭和初期までなく、始まったのは昭和39年の東京オリンピック以降ではないかということ。
その頃、戸隠バードラインが開通し、戸隠スキー場が作られ、これにより食文化等もずいぶん変わったそうです。
そば打ちをする家では、夕食後から打ち始め、日付が変わる頃に茹でて食べたそうです。

宝光社入口(戸隠商工会館前)結界のしめ縄

次に、元旦の食事について。
Q4.元旦には何を食べましたか?
A4.うどん1名、お雑煮(けんちん汁の中に餅を入れたり)2名
お節料理は家庭によっていろろ。豆を煮たり、数の子や酢だこ等は買ってお重に詰める。

Q5.とろろ昆布のすまし汁はたべましたか?
A5.(全員)食べた


お餅つきは12月28日に隣近所が集まってやったそうです。昔は親戚が多かったので1回の臼で5升、15回つき、朝から晩まで餅をついていた家もあったとか。
そして、正月に来客があればすぐ餅を焼いておもてなし。お餅はもち米だけでなく、あわ、ひえ、豆等を入れた餅、収穫時にできそこないだった米を粉にした粉餅というのもあり、それは色が悪くてマズいので嫁が食べさせれらたという話も出ました。
前回のノートでご紹介した「とろろ昆布のすまし汁」はやはり戸隠ではメジャーな料理だったようです。

Q6.その他お正月に決まった食べ物はありましたか?
A6. 2日の夜にうどんを食べた。あとは7日の七草粥まで特になし。


ということで、Q&A方式でまとめてみましたが、ここまですべてお茶を飲みながらのフリートーク。
お婆ちゃんやお姑さんが既に他界している家の嫁である私にとって、興味深いお話がたくさん聞けました。
その中から少しだけご紹介します。

お正月の遊び日
7日、15日は遊び日。男も女も夜、外に出て飲み食いしていい日。
15日のどんど焼きの際は、出店も出るので、現金収入がない女衆はコデ(=へそくり)稼ぎをした。
戦前まで戸隠の農家では麻づくりが盛んに行われていたので、夏に収穫した麻を紐にする仕事を主にやったそうです。
お小遣いの金額は自分の家の子どもには8銭、親戚の子どもには10銭ぐらい(当時1銭であめ12粒が買えた)。

嫁が自由になれる一日〜団子食い(だんごっくい
家父長制度があった頃は囲炉裏を囲んで座る位置も決まっていて、嫁は一番煙が来る臭くて寒い場所に座らせられたという体験談もありました。そんな嫁が年に一度、自由になれるのが、1月31日(通称:団子食いの日)。
とはいえ、当時は自家用車などありません。
実家から送られたねんねこ半纏を来て、ボコ(赤ちゃん)を背負い、カンジキを履いて雪道を歩いて実家に帰り、
その晩はゆっくり過ごし、次の日にはまたお土産を持って帰って来たとのこと。

今回大先輩のお話を聞く中で、現代の私たちはなんと楽な生活をしているのかと、つくづく思い知らされ、頭が下がりました。
こうして体を使って、辛抱強く努力してきたことこそが、長生きの秘訣なんですね。
また伝統の行事食には、込められた意味も深く、できる限り子どもたちに継いでいきたいと思いました。

最後に感謝と敬意を込めて記念撮影。

皆さんありがとうござましたicon06ご健康をお祈りしております!



  


Posted by toga at 16:03Comments(0)郷土料理

2015年01月09日

戸隠のお年とり(その1)


遅ればせながら、新年明けましておめでとうございます。
二年参りは雪が降りしきる中のお参りとなり、戸隠らしい新年の幕開けとなりました。
私事ですが、年末年始は熱こそ出ないものの鼻風邪をこじらせ、マスクとティッシュが欠かせない日々でしたicon10
冬休みの間、子どもが元気で過ごしてくれていたのだけが救いです(笑)。
先日七草のおかゆを食べてようやくリセットしました。毎年思いますが、七草がゆは本当に優れもの。代々継いでいきたい日本の食文化です。

ということで、今回は「お年とり」に食べるもののお話を。
県外からお嫁に来た私にとって、それは目から鱗でしたface08
「お年とり」といわれる大晦日、元旦、そして2日の三日間に食べるものが決まっているのです。
戸隠の中でも地区や家族構成(多世代が同居しているか)によって、食べる物は様々かと思いますが、戸隠地区の南の端にある我が家(家族構成=父、夫、私、子2人)の例をご紹介。

12月31日
夜 お年とりの魚「ブリ」(塩焼き)
  アラがあれば鰤大根に

1月1日
朝 とろろ昆布のすまし汁(とろろ昆布、白魚、桜えび、醤油、砂糖)
  うどん(手打風の太麺)、酢ダコ
昼 餅(おろし大根、のり、きな粉等好みで)

1月2日
朝 お汁粉(餅、小豆)


新年に歳神様がお見えになり、人はひとつ年を頂戴するというのが「数え年」の文化です。
その「お年とり」の晩には一人一切れブリをいただきます。
年越しそばというのは家では昔は特に食べなかったようですが、最近はお土地柄、年末になるとどこからかおいしい生蕎麦が届くので、そんなときにはありがたく、二年参りの前にそれをいただきます。

そして、一番のカルチャーショックは、元旦のすまし汁とうどん!
全国的に元旦はお雑煮を食べる地域が多いと思いますが、戸隠ではすまし汁とうどんなのです。
とろろ昆布の汁は、初めて食べたときは「・・・」でしたが、慣れてくると年に一度の風物詩と思ってありがたくいただいています。
うどんは「太く長く丈夫に一年を過ごせるように」との願いから。
元旦の日に「ん」のつくものをたべることで運が付くという説もあるようです。
皮が真っ赤な酢ダコも、お嫁に来て初めて食べたもののひとつ。
お節料理は「酢だこさえあればいい」なんて方もいると聞き、驚きました.。

ちなみに、家ではこれらに加え、生酢、黒豆、伊達巻き、栗きんとんを作り、にしんの昆布巻き、ちくわ、松前漬け等は既製品をいただいてお重に詰めました。※写真は昨年の元旦のもの

お姑さんやお婆さんがご健在の家ではどんな豪華な食卓になるのか..。
ということで、次回は、「戸隠のお婆ちゃんに聞いたお年とりの話」をお届けします。
  


Posted by toga at 22:33Comments(0)郷土料理